![]()
その2
ジョッキー
松樹 剛史 集英社
モデルはNかな、と思わせるような騎乗機会の少ない騎手を主人公にした物語です。特に主
人公の心理やレース中の様子などがかなり詳しく描写されておりなかなか楽しいのですがどう
も全体のストーリーに関係のない登場人物も多く特に新進調教師と古参厩務員の確執や馬を
甘やかす厩務員の話など原稿用紙を埋めるために入れたストーリーとしか思えない部分も多く
そう高く評価できる小説とは思えません。
この本に関して甘口の批評が多いのであえて辛口に書いてみました。
癌を語る
ェ仁親王 主婦の友社
スポーツ振興、福祉に尽力され競輪にも深く関心を抱いておられるェ仁親王殿下の癌治療
体験記と医師団による回想です。殿下も書かれているようにがんは患者それぞれの個体の差
によりさまざまに変化するため普遍的な話にはなりませんが6回もの手術を経て元気に活躍す
る殿下の姿に我々は勇気づけられますしそれを理解されてこの本を上梓されています。
癌が再発したとき医師団に「僕は今まで一所懸命先生方の言うことを守ってきたのに、何で
また癌になったんだ」とお怒りになったエピソードまで紹介されており殿下のざっくばらんな部分
がしのばれます。
彷徨の季節の中で
辻井 喬 新潮社
辻井喬は元セゾングループ代表の堤清二氏のペンネームで著者の自伝的小説です。後半
の部分は少々かったるいですが前半の幼少期の話はその家族関係の複雑さや土地に関する
執念など現在の西武鉄道につながるものを感じ取ることができます。特に母親違いの弟(堤義
明)と会うところはなんともいえないものがあります。
午前、午後
市川実日子 角川書店
女優市川実日子さんのエッセイです。ちょうどモデルから女優に転身しようとしている22歳か
ら24歳までの時期の連載をまとめたため日記のような形になっており本人の思い出や新たな
分野での苦悩が語られています。
決して「美人」ではない人ですが意志の強そうな眉が印象的で映画やドラマを見ているとどこ
か存在感があり私の気になる女優さんです。背の高さだけではないでしょう。(170センチはあ
ると思う)
雨鱒の川
川上健一 集英社
野球、バスケットなどスポーツ小説で有名な著者ですがこの雨鱒の川は趣を異にした純愛小
説です。豊かな自然に囲まれた少年時代と徐々に開発が進み自然が失われながらも昔のま
まの心を持つ主人公心平と小百合。
そんな二人に現実の波が襲いますが昔のままの心を持つのは二人の他に・・・・。
非常に豊かな自然の描写が小説の世界にのめり込ませますが方言の多用が台詞の意味を
わからなくさせすぎているような感じもしそれが残念です。
1988年10・19の真実
佐野正幸 新風舎/光文社知恵の森文庫
この日ほどパリーグに染まった日はなかったと思う。昼過ぎには既に発表されていた南海ホ
ークスに続いて阪急ブレーブスの身売りが発表されていた。近鉄はこの日のロッテとのダブル
ヘッダーに2試合とも勝てば既に全日程を終了している西武を抜いて優勝となるが負けはもち
ろん引き分けでも優勝を逃す。
こんな緊張感の中近鉄は第1試合を逆転勝ちし第2試合に望みをつなぐ。そして非情の結末
が・・・・。
近鉄百貨店の社員後援会応援団長としてこの試合を見てきた著者の記録は今まさに球場に
いるかのような臨場感を味わせてくれます。
世界の中心で、愛をさけぶ
片山恭一 小学館
私が最初の会社でお世話になった先輩も白血病に冒され1年と少しの闘病の後亡くなってい
ます。女性だけに見舞いに行くのも憚られ落ち着いた状態のときに上司と訪れ、たまごっちに
凝っている(そんな時代だった)などと当たり障りのない話をしたことを昨日のように思い出しま
す。だからこそブームになってもあえて読まないようにしてきたのですが実際に読んでみて大き
く印象は変わりました。
人は簡単に死んでしまうんだな、そして何も出来ないんだなという主人公の思いを主人公の
祖父が「おまえはいま彼女のために苦しんでいる。彼女は死んで、もはや自分で自分の境遇を
悲しむことさえできない。だからお前が代わりに悲しんでいる。言ってみれば、彼女の身代わり
に悲しんでいるわけだ」と諭す。あくまでテーマは死生観でありそれを愛する人の死で書き上げ
ています。そして死の話でありながら宗教的な話にいかないのが非常に新鮮です。そちらに逃
げたら簡単なのですが主人公は真っ向と向かい合います。
単なる純愛小説なら私はここで紹介しません。
鬼平犯科帳の世界
池波正太郎編 文春文庫
時代小説の名作鬼平犯科帳。ストーリーもさることながら細かな時代考証と風俗描写が読者
を鬼平の時代に引き込ませますが小説をさらに面白く読むために著者自らが編集した「鬼平
辞典」です。これを読んでから小説を読むもよし、あるいは漫画版、テレビ版で疑問に思ったこ
とを調べるために読むのもよし、小説をさらに奥深くさせる本です。
馬には馬の夢がある
井崎 脩五郎 双葉文庫
競馬予想に関しては「?」がつくことが多い筆者ですが世界各国から集めてくる競馬に関する
エピソードは面白い話が多く楽しく読むことが出来ます。
この本には地震が来たら走る馬、とことん走るのが嫌いな馬、白衣を見ると暴れだす馬と個
性的というか面白いというかそんなエピソードがいっぱいです。
競馬場のマリリン
瀧澤陽子 平原社
30年以上中山競馬場の窓口で馬券を売り続けている筆者の馬券売場から見た馬と人間の
風景です。「1万円いただきます」と言って「まだJRAにやったんじゃない」と怒られたくだりなどう
わっ、こんな風に窓口から見られていたんだと思うような話がいっぱいです。
背番号3桁「僕たちも胴上げに参加していいんですか」
中田潤 他 竹書房
タイガース関連本がいろいろ出ていますがこれは監督・選手といった表舞台ではなくブルペン
捕手、コーチ、スコアラーといった裏方にライトを当てています。綿密な取材とインタビューで構
成されています。
サブタイトルは優勝が決まりそうになった頃打撃投手が星野監督に尋ねた台詞です。監督の
答えは言うまでもないでしょう。
「アホか、そんなもん決まっている。全員参加だ」
プロ野球 男の美学
近藤唯之 PHP文庫
長くプロ野球記者をつとめてきた筆者の熱い思いが伝わる著作です。「〜しかいない」という
断定口調には「本当か」と突っ込みを入れたくなりますがそれが著者の文体ですので気にせず
にお読みください。スターだけでなくバイプレイヤーにも分け隔てなく視線を注ぎプロ野球の魅
力を伝えてくれます。
![]() |